濱口桂一郎『新しい労働社会』

新しい労働社会 : 雇用システムの再構築へ 岩波書店、2009年7月
★一言感想メモ

  • 新書らしいまとまりのある本。ただし「新しい」と謳いながらそれほど新しい感じがしなかったのは、藻谷浩介『デフレの正体』城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』ゆえか。と、労働系のものを読むと思ってしまうのはすでに毎度のこと。
  • 本田由紀『教育の職業的意義』が未読なら、合わせて読むとよいと思う。本田氏のほうがテーマが絞られているため。
  • デュアルシステム、など制度設計から入るよりも、どのような人間が必要か、どのような人間を望んでいるか、どのような社会を求めているか、について真剣に考えるほうがよっぽど健全でよい制度になるのでは、と思う。政策がうまくいかない理由はさまざまるはずだが、現実の把握が甘ければ問題点も把握できず、フィードバックと方向転換が遅ければ失敗するのはなににおいても同じことだろう。
  • 堀内都喜子『フィンランド豊かさのメソッド』で見たような、人間重視、質の高い教育によってのちのち人も国も救われる、という思想を、広く共有できたらいいのに、と思う。
  • 以下、教育と労働の歴史的な流れのうち自分の頭から抜けていた部分を簡単にメモ。(pp.137-145)
    • 公的人材養成システムを中心におく政策構想は、同一労働同一賃金原則に基づく職務給制度が唱導された1950年代に、政府や経営者サイドから繰り返し打ち出されていた。それを学校教育の純粋性を第一義と考える文部省が渋った。
    • 1960年代に人的能力政策に関する経済審議会答申で、職業訓練と技能検定制度による企業横断的職種別労働市場が政府全体の政策目標として打ち出され、文部省も職業教育に重点を置く教育の多様化を打ち出したが、日教組が高校教育の格差づけだと非難した。
    • 1990年代初頭から労働省は企業内人材養成から自己啓発に政策をシフト。
    • 2000年代半ばから、若者や非正規労働者などを念頭においた、公共的訓練サービスの重要性が強調されるようになる。
    • 文科省は2003年度から、先端的な技術・技能などを取り入れた教育や伝統的な産業に関する学習を重点的に行っている専門学校を指定校として、スペシャリスト育成事業を実施。
    • 2009年初めからキャリア教育・職業教育特別部会で審議。←ここは本田氏の中でも書かれていた記憶。
  • フレクシキュリティ:フレクシビリティ(柔軟性)+セキュリティ(安定性)(p.198)