堀内都喜子『フィンランド豊かさのメソッド』

フィンランド豊かさのメソッド 集英社、2008年7月
★一言感想メモ

  • 目次を見れば内容がわかる、そんな目次。
  • 筆者が5年間の大学院生活の中で観察したフィンランドフィンランド人について、筆者が日本と似ていると思うところ、違うと思うところ、素晴らしいと思ったところ、驚いたこと等を読みやすくわかりやすく綴っている。
  • フィンランドは卒業年限や入学年齢などが均一ではまったくなく、勉強をすることで新しい道を切り開くという選択肢が誰にでも開かれているように読めた。
  • 筆者はフィンランドには「やり直しがきく社会や環境がある」と書いている。誰もが足並みを揃えて進学することよりも、人が自分の気持ちを大切にして生き方を考えることを重視しており、それを実行できる制度にしていることをとても素敵だと思った。
    • 教育は「自分の身を守り、能力を高めるための切り札」というのは、個人に限ったことではなく、国についても言えることではないかと思った。
    • フィンランドは、人間が最重要資源だということを認識してそれを制度に本気で反映させている、と思った。

==目次==

第1章 不思議でとても豊かな国〜失業率20パーセントから国際競争力一位へ

  • もっとも近いヨーロッパ、隣の隣
  • 日本語と音が似ている、おかしな言葉
  • 本当に世界一? 残業はしないのに
  • バブル崩壊から国民への投資で復活
  • 効率高めるためITを駆使

第2章 学力一位のフィンランド方式〜できない子は作らない

  • 工夫をこらしたクラス編成
  • 制服も校則もなくあまりに自由な中学・高校
  • 授業時間が少ないのに世界一?
  • 教職は人気があり質が高い
  • 落ちこぼれを出さず、学力差も出さず
  • 国をあげての教育プロジェクト
  • 母国語の他、英語もスウェーデン語も
  • 授業料が無料ばかりか、毎月約500ユーロを支給
  • チューターに助けられた私の留学当初
  • 大人になっても生涯勉強の強い意欲

第3章 税金で支えられた手厚い社会〜独立心が旺盛でたくましい女性

  • 高い税金だが、使途はガラス張りで
  • 子どもには国から養育手当が
  • 同棲が当たり前でも多い離婚
  • 親と同居はしない、介護もプロに
  • 大統領も首相も女性

第4章 日本と似ている?フィンランド文化〜異文化コミュニケーション

  • なんとも不思議なフィンランド
    1. "世界一まずい"サルミアッキが大好物→タイヤの味
    2. 名前がなくて、外でお昼寝する赤ちゃん
    3. ノルディックウォーキングにフィンランド式野球
    4. 誰よりもスウェーデン嫌い
    5. 家でもなんでも自分で作る
  • 森の豊かさと、体感できる季節の変化
    1. 生活に密着した、暗くない森
    2. 普通の人でも楽しむ別荘ライフ→サウナ
    3. もっとも感動する五月と温度計
  • 沈黙を好むがダイレクト
    1. フィンランド人は恥ずかしがりや?
    2. がんばるという表現がない
    3. グレーな部分がなくすべて対等

おわりに

  • 以下、おもにフィンランドの学校・教育制度についてのメモ
  • 高校について(pp.52-54)
    • フィンランドでは私立高校がなく、すべてが公立。
    • 高校受験はなく、内申書の成績だけで高校進学が決まる。ある程度いい成績をとっていれば、間違いなく入れる。
    • 高校には、本当に勉強をしたくて、将来さらに進学したい人だけが通うところという意識がある。
    • あまり勉強が好きではないとか、手に職をつけたい、と思っている生徒は、職業専門学校に通うのが普通となっている。
    • 高校は単位制で、三年ではなく自分のペースにあわせて三年半、または四年かけて卒業する人もいる。
    • 卒業するときには、全国共通の卒業試験がある。ここで一定の点数をとらないと卒業できないし、その結果が日本の大学入試センター試験のように、大学入試の際にも使われるので、いい点数をとることが非常に大切になってくる。
  • 教員について(pp.60-62)
    • フィンランドでは、日本のような自治体の教員採用試験はない。大学で教職課程を修了していれば、教師の資格ありとみなされ、地域は関係なく自由に就職ができる。
    • 教職課程を受講するためには厳しい審査を通過しなければならない。
    • 知識だけではなく、教師にふさわしいかどうか、人間性を判断する適性検査がおこなわれ、受かった者だけが教職課程を受講できる。
    • 適性検査は個人面接とグループディスカッションがある。
      • 個人面接は、現役の学校の教師と大学で教育学を教える講師が二人一組となって、一人ひとりを面接する。
      • グループディスカッションは、議論への参加の仕方、周りとの関係の築き方、人の意見に耳を傾けることができるか、ものごとを柔軟に考えることができるか、社交性、協調性等、教師としての資質が審査される。
      • 一度試験に落ちても、何度でも試験を受けることができる。
  • 勉強・教育への援助(pp.82-99)
    • 17歳以上の学生であれば、一人暮らしであろうと親と住んでいようと海外に住んでいようと、政府からの生活援助が受けられる。
    • フィンランド人は皆、好きなだけ学生生活ができるし、合格さえすれば誰にも遠慮することなく、したいときに、いくらでも勉強ができる。
    • 大学には卒業論文の提出期限がない。論文はいつでも、できたときに提出すればよい。一年以上かけて書くことも、卒論を残して就職することもでき、卒論提出後に大学に在籍し続けることも何年でもできる。
    • 転職のための勉強、現在の仕事を続けるためのさらなる勉強等、家族を持っている人でも勉強を始めて修了することができる制度がある。また、社会もそれが可能な就業時間、生活スタイルが普通である。
    • 不況を乗り越えるために国民の再教育を奨励し、小さな国ゆえに一人ひとりの能力が国の重要資産である、と位置付けた政策が今、義務教育、高等教育、成人教育で花を咲かせつつある。
    • 教育に力を入れつつもおおらかな空気が漂っている。