市川伸一『考えることの科学:推論の認知心理学への招待』

考えることの科学―推論の認知心理学への招待 (中公新書)中公新書1345、中央公論、1997年)

*2006/03/30現在

*感想

  • 前半は頭の体操。確率や統計、数学の部分は理解しきれない部分もあって、ひとつひとつ確かめていくのは大変だったけれど、他の可能性を考えるという訓練になった。(すぐに生かせるかどうかというとそれは無理な話で、おそらく時間がかかることだけれども。)
  • 様々な心理過程を見て思うのは、アンケート形式の統計や記憶をたどって答えるような質問形式でとった統計が、高い信憑性を持つものであるのは、ものすごく大変なことだということ。これが『社会調査のウソ』で見たような、アンケートを採るときの様々な考慮条件に加わるのか・・・。
  • 理論的な結論と直観とのズレを同型図式で調整できると快感!(p.125の「ルーレット表現」の「三囚人問題」など)
    • →直感的判断の中に潜む思い違いや、規範的な理論や手続きのチェックによって、推論をより確かなものに。
  • 推論の組み立てが、無意識のうちに自分の期待・仮説の方向に向かっていないか、チェック。
  • 認識を洗練させるためにも、ルーティンとして当たり前に出てくる仮説ではない推論がある可能性へ目を向ける必要性があることを確認すべし。
  • 推論のもつネガティブな面と、合理的な面の両面を直視して改善していくべし。→議論の際には、特に。

メモ

  • 社会:心理学では人と人の関係のあるところを「社会」という習慣がある。必ずしも「大衆社会」とか「社会現象」とかいうときのマクロな意味ではない。
  • 人間の推論
    • 人間の推論は、形式的な論理に沿ってではなく、問題領域に固有の知識に基づいてなされる。
    • 信念、感情、期待、他者からの情報、人間関係などが大きな影響をもっている。
  • 記憶と推論
    • 人間の記憶のメカニズムの中で推論が重要な役割を果たすとき
      • 記銘:覚えようとするとき。対象に何らかの解釈をほどこして対象モデル(表象:representation)を生成する。
      • 想起:思い出すとき。記憶の断片を材料に、自分が見聞きしたことをスキーマで補完したり解釈したりしながら、再現しようとする。
        • →経験した事実から離れて、当人にとってわかりやすい、意味の通った話になってしまう可能性。
  • 問題解決と知識
    • 知識(問題解決のパターン)にどの程度頼るかは、個人差や好みにもよるが、より少ない法則や手段で多くの問題を解くのは節約の原理にもかなっている。
    • 領域固有の知識の必要性(1970年代):問題スキーマや解法の手続き、問題解決経験を知識として蓄積し利用。
    • 転移(transfer):問題を解いた経験が(解決スキーマの生成や解法発見につながることで推論プロセスがつくられて)他の問題の解決を促進する。類推。
  • 自己の感情と他者
    • 自尊感情→自分の意見が正しいという傍証(より多くの人々に支持されている、権威ある人と同じ意見)を集める。(→類は友を呼ぶ)自分に対する甘めの評価。自己を守る。
    • 自分とは反対の意見やデータに対してその不備を指摘するときの人間の意欲と能力はすごいものがある。(ぬはは。・・・反省。)
    • 極論と応酬・サービス精神:文化が異なっていてそれぞれのもつ情報源やメディアの特徴が通じ合っていない場合、大きな誤解と混乱を引き起こす。(話し手の誇張の方向と、聴き手の期待の方向とが一致すると、相乗的な効果を生んで誤解が増幅される。)